40.収益を決めるのは事業立地とビジネスモデルです!
平成30年2月税理士・会計事務所様へのメッセージ
銀行融資プランナー協会
代表理事 田中英司
収益の良し悪しは、
マネージメントやマーケティングの上手下手ではありません。
事業の収益性を決める要素はたくさんありますが、最も重要なのは、事業立地(ポジショニング)を含むビジネスモデルであって、マネージメントやマーケティングではありません。このことは、案外誤解されているようです。
「STARの法則」(ダイレクト出版)の著者であるリチャード・コッチ氏は、その著書な中で『覚えておきたいのは、「一にも、二にも、三にも人」ではない。一貫してうまくいく有効な解答は、「一にも、二にも、三にもポジショニング」だ。』と明言されています。このメッセージをご理解いただいた上で、読み進めてください。
◆高収益は事業立地(ポジショニング)で決まる!
そもそも、今掘っている場所にお宝は眠っているのか?
中期経営計画や創業計画の作成等、将来の事業構想を練る場面において重要なことは、事業の領域を検証することです。下品な例えですが、お宝の埋まっていない地面をいくら上手に掘り進んでも、収穫はありません。優秀な経営者のもとに、優秀な人材と多額の資金を投下しても、石炭の採掘での事業化は難しいはずです。採掘を行うなら、シェールガスか、メタンハイドレートの方が良いはずです。
事業の成功の可否は、そのマネージメントや狭義のテクニカルなマーケティング力が主因ではないようです。事業領域の設定、すべてはここから始まります。事業領域をどう設定するか、これこそが、経営の最大のテーマです。
少し古い記事で恐縮ですが、三品和広教授の記事を引用して紹介させていただきます。
『…(高収益企業の研究を通じて)成功例に共通している点は一目瞭然だった。「事業立地」がよいということだ。仕事の仕方の工夫や製品開発ではなく、そもそも「何屋さんをやるか」の選び方が優れている。事業立地の考え方では、ある市場の中でどこにポジションするかよりもむしろ、そもそもどの市場を選ぶかが重要になってくる。…』
週刊東洋経済2015年9月12日、特集経営学の教科書(東洋経済新報社)に寄稿された三品和広教授の記事より。
『…事業の根底には立地(誰に何を売るか)があり、その上に構え(出荷するモノをいかに入手して顧客に届けるか)、製品(いかに個別製品を魅力的に仕立てるか)、管理(いかに品質・原価・納期を守るか)が重層構造を成している。…中期経営計画などで立地や構えに手をつけることなく、製品の刷新や管理の強化を打ち出している企業は数多くあるが、この次元で動きだしたところで、高収益への転換に結び付いた事例はほとんどない。…』
(単行本「高収益企業の創り方(東洋経済新報社)」著者:三品和広氏〔神戸大学大学院・経営学研究科教授〕)
自社にとっての事業立地は適正でしょうか?まずは、この検証から始めてみましょう。
自社の事業立地を検証し続けることは、経営者にしかできない極めて重要な仕事です。であるにも関わらず、案外おろそかにされがちです。
そもそも、今掘っている場所にお宝は眠っているのか?少し横を掘れば、多くのお宝が見つかる、こんなことはないのか?そもそも、スコップで穴を掘っているけど、もっと上手に掘れる道具はないのか?そもそも、掘り出そうとしているけど、掘らずに作る方法はないのか?
『高収益は事業立地で決まる』、高収益企業研究の第一人者がおっしゃっておられる言葉です。真摯に受け止めて、自社の企業経営に生かしましょう。自社の事業立地の検証を始めましょう。
◆ビジネスの原点はビジネスモデルです。
受注型、プロダクト型、ストアー型、プラットフォーム型の検証!
繰り返しますが、事業体の収益や拡張性は、事業立地(誰に何を売るのか?)とビジネスモデルで大半が決まります。マネージメントやマーケティングの上手下手は、それらの下位の概念です。マネージメントやマーケティングを考える前に、事業立地(誰に何を売るのか?)やビジネスモデルに着眼してください。
時間が経過するほど、事業立地(誰に何を売るのか?)とビジネスモデルの差が顕在化します。
お尋ねします。貴社は、
1.受注型ですか? 2.プロダクト型ですか?
3.ストアー型ですか? 4.プラットフォーム型? を狙っていますか?
1.受注型とは、
建設業などの請負業、下請けと呼ばれる製造業、個別事案ごとに対応するコンサルタント業等、顧客の要望を受けて個別に製品やサービスを提供するビジネスの型です。突出した技術やスキル、または対応能力(キャパシティー)を有している企業は、価格競争に巻き込まれにくく、大きな収益を上げています。
一方、顧客ごとの対応が必要になり、ビジネスとしての定型化が難しい、また、売上が発注先の意向に左右されやすいために、ビジネスとしての拡張性に難があるといわれています。突出した技術やスキル、または対応能力(キャパシティー)を有している企業以外は、発注元の意向に沿った納期・価格が設定されてしまい、価格主導権を握れません。ボリュームの大きい(単価の高い)建設業等を除いては、BIGカンパニーになりにくいビジネスモデルです。
2.プロダクト型とは、
自らのサービスを商品化・定型化して、顧客に採用(購入)の可否を選択してもらうビジネス形態です。もちろん、提供する商品やサービスが選ばれるに値する価値を有していなければなりません。故に、徹底的に磨き込まれた強い商品・サービスでなければなりません。一点特化・絞り込みが必要です。
徹底的に磨き込まれた強い商品・サービスを自らの意志で開発し販売するこの型は、経営が効率的で、収益性と拡張性を担保できます。何より、価格主導権を自社が握ることになります。エクセレント企業の多くは、(配下に多くの受注型企業を抱えた)このビジネスモデルです。
一般論として、事業体は受注型からプロダクト型に進化していきます。
受注生産から自社ブランドの製品開発・販売への移行は正統派の戦略です。受注型の建売建設業から自社ブランドのハウスメーカーへの移行例は多くみられます。個別対応のコンサルタント会社は、ノウハウを商品化してプロダクト型に移行します。
3.ストアー型とは、
プロダクト型の横への拡張型を指します。プロダクトで成功した事業体は、規模の拡大のために、総じて横展開を始めます。力があれば、その業容を拡大できますが、力が無ければ、あれも、これも…総花的で、弱い商品・サービスの集合体になり下がります。分散症候群を患います。商品・サービスの品ぞろえは、自社の実力との兼ね合い、力相応でなければなりません。総じて力以上に幅を広げすぎるケースが多いように感じます。規模の拡大と共に、収益力の低下が懸念されるビジネスモデルです。
※多くの中小企業は、事業の拡大を狙ってプロダクト型からストアー型に移行する時に、その商品やサービスの幅を広げます。しかし、その幅の拡大が売上の増大に比して大きいため、その生産性を著しく引き下げる結果を招きます。繁盛貧乏に陥ります。そして、この状態で停滞しています。『選択と集中』とは、ストアー型をプロダクト型に戻すことです。プロダクト型の企業は、ストアー型に移行せず、プラットフォームの構築を狙うべきとの持論を持っています。
4.プラットフォーム型とは、
『関連事業者や顧客が集まる「場」を自社が創る』モデルです。精鋭の経営者は、このプラットフォーム型を狙っています。フェイスブック、楽天、アマゾン、アップル…すべてプラットフォーム型です。
容易ではありませんが、自社が狙う極めてニッチな分野に限定すれば、実現できる可能性はあります。狙ってみましょう。
5.さらに付け加えるなら、
プラットフォームを構築できた精鋭企業は、このプラットフォームを活用して金融事業をはじめます。大きな収益を稼ぎ出しています。最後は金融事業です。
受注型はプロダクト型へ、ストアー型もプロダクト型へ、プロダクト型はプラットフォームの構築を狙ってください。プラットフォームを構築できたら金融事業に参入しましょう。
ビジネスモデルの優位性比較 | 規模の拡張性 | 収益性(率) | 経営リスク | 総合評価 |
---|---|---|---|---|
1.受注型 | △ | 〇 | 〇 | 〇 |
2.プロダクト型 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
3.ストアー型 | ◎ | △ | △ | △ |
4.プラットフォーム | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
5.プラットフォーム+金融 | ◎◎ | ◎◎ | ◎◎ | ◎◎ |
事業立地を見直して、かつ、ビジネスの型を転換する!
事業の立地、立ち位置をよく確認してください。一歩隣を掘ってみませんか。私は、税務を担う「税理士」事務所に対して、税務+財務を担う「新・税理士」を提唱し続けています。「税理士」事務所は星の数ほどありますが、「新・税理士」は極小です。これが事業立地の見直し、ポジショニングチェンジです。貴社にも応用できるはずです
受注型の企業は、高付加価値、アッパーニッチの自社商品・サービスを開発してプロダクト型企業に転身してください。収益力と規模の拡大の両方を手中に収めることができるかもしれません。ストアー型の企業は、絞り込んで(Simple化)プロダクト型企業に戻してください。分散を是正することで会社が劇的に変わります。その上で、プラットフォームの構築を目指してください。
◆経営者の仕事は、事業立地とビジネスモデルの検証・構築以外にありません。
経営者の仕事は何?あれもこれも…たくさんありますが、重要度で下位から消去して最後に残るのは、「事業立地とビジネスモデルの検証・構築」です。であるにも関わらず、大半の経営者はこれらの仕事をぞんざいにしています。故に、経営者不在の企業体になり下がっています。創業時に考えたビジネスモデルや、親から受け継いだビジネスモデルを進化・発展させることなくただただ継続しています。ビジネスモデルは時間と共に風化し、当然企業体も寿命を終えることになります。