7つの実践的プライシング戦略[第633回]

…中小企業こそ「値決めの経営」を取り戻せ
(毎週火曜日配信)税理士事務所様の経営を考えるコラム
GPC-Tax本部会長・銀行融資プランナー協会
代表理事 田中英司
貴社の経営、クライアントの経営支援のネタにご利用ください。
「値決めは経営である」稲盛和夫氏の言葉です。
しかし、多くの中小企業では、依然として“原価に利益を乗せるだけ”の単純な値決めが行われています。
コスト上昇、賃上げ圧力、消費者の多様化。今の時代、値決めは「守り」ではなく「攻め」の経営戦略です。
ここでは、中小企業でも実践できる7つの値決め戦略を提言します。
●1.コスト・プラス方式 ― 経営の最低ラインを守る
もっとも基本的な手法は、原価に一定の利益率を加える「コスト・プラス方式」です。
製造業であれば原材料費・人件費・間接費を明確にし、最低限必要な粗利益を確保する。
「利益を残す仕組み」をつくる第一歩は、この下限価格の明確化から始まります。
ただし、これを最終価格にするのではなく、“赤字を防ぐ防波堤”として位置づけることが重要です。
●2.競争ベース方式 ― 市場感覚を持つ
同業他社の価格を参考にしながら、自社の立ち位置を決める方法です。
価格競争が激しい市場では有効ですが、最安値争いに巻き込まれる危険もあります。
肝心なのは「5%高い理由」を明確にすること。
たとえば「納期が早い」「品質が安定している」「担当者が変わらない」など、付加価値を言語化できれば、価格差は納得に変わります。
●3.価値ベース方式 ― 顧客が感じる価値で決める
顧客が「何に価値を感じているか」を起点に価格を設定する考え方です。
時間短縮、信頼性、安心感、ブランドなど、目に見えない価値を価格に反映します。
たとえば、夜間対応の清掃業者が通常より高い料金でも選ばれるのは、“安心”という価値に顧客が対価を払っているからです。
値決めとは「顧客の感じるベネフィットを数値化する作業」なのです。
●4.ダイナミックプライシング ― 柔軟に価格を運用する
需要・時間帯・在庫状況などによって価格を変える戦略です。
航空会社やホテルだけでなく、今や飲食店、美容室、レンタル業などでも導入が進んでいます。
・平日昼は割引して空席を埋める
・週末や繁忙期はプレミア価格で利益を確保
AIやPOSデータを使わなくても、曜日・時間帯・天候別料金といった手法から始められます。
「固定価格の経営」から「運用価格の経営」へ。中小企業にもチャンスがあります。
●5.サブスクリプション方式 ― 継続利用を収益化する
「月額制」「定額制」で安定収益を得る仕組みです。
顧客はコストを予測しやすく、企業はLTV(顧客生涯価値)を高められます。
美容室の「通い放題プラン」、飲食店の「定額ランチパス」、印刷会社の「月額販促セット」。
ポイントは、“毎月支払う理由”を設計すること。単なる値引きではなく、「安心・便利・特典」を積み重ねることで継続率が上がります。
●6.バンドル価格 ― セット化で価値を高める
複数の商品・サービスをまとめて販売し、単品より割安に見せる手法です。
たとえば、飲食店なら「ランチ+ドリンク+デザートセット」、製造業なら「部品+メンテナンス契約」など。
セット化することで顧客単価を上げ、在庫処分や新商品の導入にも活用できます。
ただし、単なる値引きにならぬよう、「組み合わせの意味」を明確にすることが鍵です。
●7.プレミアム・プライシング ― 高価格を戦略に変える
「高いから売れない」ではなく、「高いから選ばれる」を目指す戦略。
価格を上げる代わりに、品質・体験・ストーリーで差別化します。
星野リゾートやスターバックスはその典型で、価格を“ブランド構築の手段”として使っています。
中小企業でも、「社長が直接対応」「完全予約制」「地域限定」など、特別感を演出する工夫でプレミアム価格を実現できます。
「値決め力」は「生き残り力」です。
物価高・人件費高・市場縮小という環境の中で、価格を動かさない企業は衰退します。
「いくらで売るか」は、「誰に・何を・どう届けるか」と並ぶ経営の根幹です。
値決めを恐れず、価格を戦略的に設計できる企業だけが、変化の時代を生き抜くことができます。
中小企業こそ、「値決め=経営」という原点に立ち返り、価格を“数字”ではなく“戦略”として扱うべき時です。
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