2026年、賃上げとの向き合い方![第662回]

…最優先課題は価格転嫁の徹底です。

(毎週火曜日配信)税理士事務所様の経営を考えるコラム
GPC-Tax本部会長・銀行融資プランナー協会
代表理事 田中英司

貴社の経営、クライアントの経営支援のネタにご利用ください。

2026年の日本における賃上げ動向は、過去数年の流れを受けて「構造的賃上げ」の段階に入りつつあります。
2024年・2025年に続き、2026年も全国平均で3.5%~4.5%程度の賃上げが想定され、大企業では5%前後、中小企業でも2.5%~3.5%程度の賃上げが広がる見込みです。
加えて、最低賃金は年率約3%前後で引き上げが続いており、人件費上昇は一過性ではなく中長期的な前提条件となっています。
こうした環境変化は、中小企業経営に対し従来以上に本質的な変革を迫るものです。

まず重要なのは、賃上げを「やむを得ないコスト増」としてではなく、「競争力維持・強化のための戦略投資」として再定義することです。
人手不足が慢性化する中で、賃金水準の見劣りは採用難のみならず既存人材の流出を招きます。
特に中小企業においては、少なくとも年率3%程度の持続的な賃上げを実現できるかどうかが、事業継続力に直結すると言っても過言ではありません。
したがって、賃上げの可否ではなく「どのように実現するか」を前提に経営を組み立てる必要があります。

次に、賃上げ原資の確保に向けた収益構造改革が不可欠です。中でも最優先課題は価格転嫁の徹底です。
2026年時点でも価格転嫁率は全体で6~7割程度にとどまると見られ、依然として改善余地があります。
経営者は、自社の製品・サービスが提供する価値を言語化し、取引先との交渉力を高める必要があります。
同時に、単なる値上げではなく、付加価値の向上によって「選ばれる理由」を強化することが重要です。
価格決定力を持たない企業は、賃上げを継続する体力を持ち得ません。

さらに、人材戦略の再構築も欠かせません。賃上げは重要な要素ではありますが、それ単体では人材の定着や活躍には不十分です。
評価制度の透明性向上、リスキリング支援、柔軟な働き方の整備などを組み合わせ、「働く価値」を総合的に高める必要があります。
特に若手人材は、給与水準に加えて成長機会や働きがいを重視する傾向が顕著です。
そのため、賃上げを短期的施策として終わらせるのではなく、中長期的な人材投資戦略として体系化することが求められます。

また、生産性向上への取り組みは、賃上げを持続可能なものとするための前提条件です。
3%を超える賃上げを継続するためには、それを上回る付加価値創出が不可欠です。
ITツールの導入、業務プロセスの見直し、省人化投資などを通じて、一人当たりの生産性を高める必要があります。
特に中小企業ではデジタル化の遅れが顕在化しており、ここへの投資は単なる効率化にとどまらず、競争優位の確立にも直結します。
各種補助金や税制優遇を積極的に活用し、投資のハードルを下げる工夫も重要です。

最後に強調すべきは、経営者の意思決定の質とスピードです。現在の賃上げ環境は循環的な景気要因ではなく、労働市場構造の変化に起因するものです。
すなわち、今後も年率3%前後の賃上げ圧力が常態化することを前提に、経営モデルそのものを再設計する必要があります。
場当たり的な対応ではなく、「人材」「価格」「生産性」を一体的に捉えた戦略的意思決定が求められます。

総じて、2026年は中小企業にとって賃上げ対応を契機とした経営変革の重要な転換点です。
他社動向に追随するだけではなく、自社の強みと市場環境を踏まえた主体的な戦略構築こそが、持続的成長への鍵となります。
賃上げをコストではなく未来への投資と捉え、その実現に向けた経営基盤の強化に踏み出すことが、今まさに求められています。

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