インフレ時代に勝ち残る経営[第668回]

…値上げを前提とした経営へ転換する
(毎週火曜日配信)税理士事務所様の経営を考えるコラム
GPC-Tax本部会長・銀行融資プランナー協会
代表理事 田中英司
貴社の経営、クライアントの経営支援のネタにご利用ください。
前回のコラムでは、日本が長年続いたデフレ時代を終え、本格的なインフレ時代へ移行しつつあることについてお伝えしました。
人手不足による賃金上昇、人口減少による供給制約、円安の定着、エネルギー価格の高止まりなどを考えると、物価上昇は一時的な現象ではなく、今後も長期間続く可能性が高いと考えられます。
では、中小企業経営者は具体的にどのような経営を行うべきなのでしょうか。
結論から言えば、これまでの「売上重視経営」から「利益重視経営」への転換が必要です。
■値上げを前提とした経営へ転換する
インフレ時代において最も重要な経営課題は価格戦略です。
人件費や原材料費、物流費、エネルギーコストが上昇しているにもかかわらず、販売価格を据え置けば利益は確実に減少します。
利益が減れば、賃上げも設備投資もできなくなり、結果として企業の競争力は低下していきます。
それにもかかわらず、多くの経営者は今なお値上げをためらっています。
しかし、これからの時代は「値上げするかどうか」ではなく、「どうすればお客様に納得していただける値上げができるか」を考えるべきです。
そのためには価格競争から脱却しなければなりません。専門性、技術力、提案力、スピード、品質など、自社独自の価値を高めることが重要です。
価格で選ばれる会社ではなく、価値で選ばれる会社を目指すことが求められます。
■生産性を高める
これからの日本では、人手不足がさらに深刻化します。そのため、「人を増やして成長する」という発想は限界を迎えつつあります。
重要なのは、一人当たりの生産性を高めることです。
私は以前から、一人当たり粗利益1,200万円以上を一つの目安として考えるべきだと提言しています。
同じ売上規模でも、生産性の高い会社は賃上げや投資に対応できますが、生産性の低い会社は人件費上昇に耐えられません。
経営者は常に、「この業務は本当に必要か」「もっと効率化できないか」を考えるべきです。
インフレ時代は、仕事を増やす経営ではなく、無駄な仕事を減らす経営が求められます。
■DXと外部活用を進める
生産性向上の有力な手段がDXです。
DXというと大規模なシステム投資を想像する方もいますが、実際には生成AIの活用、クラウド会計、電子契約、オンライン会議など、小さな改善の積み重ねでも十分な効果があります。
また、経理や総務、WEB運営、デザインなど、自社の強みではない業務については外部活用も検討すべきです。
人手不足と賃金上昇が続く時代において、「何でも自社で抱える経営」は大きな負担になります。
自社の強みに集中し、それ以外は外部の専門家を活用することが重要です。
■売上より利益を見る
デフレ時代は売上拡大が経営の中心でした。しかしインフレ時代は利益の確保が最優先です。
売上が増えても利益が減っている会社は、実質的には経営が悪化しています。一方で、売上が横ばいでも利益率が改善している会社は、確実に経営体質が強化されています。
経営者が毎月確認すべき数字も変わります。
売上だけではなく、
・粗利益率
・営業利益率
・一人当たり粗利益
・労働分配率
・顧客別利益
などを継続的に管理する必要があります。
特にインフレ時代は、売上が伸びていてもコスト上昇によって利益が減少するケースが少なくありません。数字の中身を見る習慣が重要です。
■インフレ時代は経営力の差が拡大する
私は、インフレを悲観する必要はないと考えています。むしろ、インフレ時代は経営力の差が明確になる時代です。
値上げができる会社、生産性向上に取り組む会社、利益管理を徹底する会社は成長します。
一方で、価格競争から抜け出せず、売上だけを追い続ける会社は厳しい状況に直面するでしょう。
デフレ時代の成功法則は「安く売ること」でした。しかし、これからの成功法則は「適正な価格で販売し、適正な利益を確保すること」です。
そして、その利益を人材育成やDX、設備投資に再投資し、さらに競争力を高める好循環をつくることです。
これからの10年、日本の中小企業は大きな転換期を迎えます。
しかし、その変化を正しく理解し、利益重視の経営へと転換できた企業にとって、インフレ時代は決して脅威ではありません。
むしろ、企業体質を強化し、競争優位を築く絶好の機会になるのです。
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